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第十一回 忘れられぬ江夏豊の球宴での快投

(文) スポーツジャーナリスト・白髭隆幸
協力:SPORTS 21
 

4年に一度のサッカーワールドカップが閉幕し、スポーツ界も放心状態になっていますが、プロ野球も前半戦の終盤に差し掛かり、ペナントレースも佳境に入ってきました。

前半戦と後半戦の挟間に開催される夢の球宴・オールスター戦の時期になりました。オールスターといえば、「お祭り男」と呼ばれる選手の活躍が話題を起こします。昔は長嶋茂雄、現在は新庄剛志あたりになるでしょうか。花のある試合に良い結果を残す「記憶に残る選手」です。

でもピッチャーでいえば、やはり江夏豊の活躍は出色でした。一番の思い出は、1971(昭和46)年7月17日、“今は亡き”西宮球場でおこなわれた一戦でした。当時、阪神タイガースのエースであった江夏は、先発ピッチャーとしてマウンドに登り、並みいるパシフィックリーグの強打者を9連続三振でなで切りにする、空前絶後の新記録を達成したのです。

ご存じのとおり、オールスター戦では、規定により1人のピッチャーは3イニングしか投げることができません。つまりアウトにして9つです。それを、すべて三振で仕留めたのですから、究極の快投でした。

じつはこのシーズン、江夏豊は阪神タイガースのエースとしての成績としては、あまりにも悪すぎたのです。26試合に投げ6勝9敗、防御率も3.12と投手成績15位という有り様。それだけに、このオールスターには期するものがあったのでしょう。

1回の表、先頭打者の有藤を空振りの三振に打ちとると、その余勢をかって基、長池ともに空振りの三振に打ち取りました。江夏はこの時の印象を、「このシーズン、成績が悪かったにもかかわらず、ファンの方が投票してくださって1位に選んでくださいました。恐らく、三振をとることを期待してくださったのでしょう。その期待にただ応えただけです。9人のうち用心したのは長池さんだけでした。32試合連続安打を打っておられるので、ただ1球だけフォークボールを投げました」と語っています。

2回表、打席に立った江夏はランナー2人を置きスリーランホームランを打ち、セントラルリーグが4―0とリード。ますます気をよくします。

2回裏、江藤、土井を早めに追い込み空振りの三振。東田を見逃しの三振にうちとり、これで6打者連続三振。この時点で金田正一が3度、稲尾と江夏自身が前年に作った5者連続三振のオールスター記録を破りました。

「このシーズン、中日戦でいじめられた江藤さんは警戒しましたが、三振の新記録のことは知らなかったですね。だから変なプレッシャーもかからなかった」と試合後に江夏は語っています。

そしていよいよ3回、阪本、岡村と三振に打ち取った江夏。9番目の打者はピンチヒッターの加藤。1ストライク1ボールからの3球目、加藤の打ったボールはキャッチャーのファールフライ。キャッチャー田淵に江夏は「捕るな!」と怒鳴りました。田淵は捕れるボールを見送り2ストライク1ボール。4球目は空振りストライク。ついに大記録は達成されました。

「2回まで全員を打ち取っていたので、なんとか9人連続三振をやってやろうと思いました。ただ残念なのは張本、大杉、野村といった大打者がクリーンアップにいなかったことだった」。江夏らしい強気の発言でした。

これで江夏は前年からの5連続を加えるとオールスター14連続三振ということになります。大記録の後に、江夏は大記録達成の理由を次のように語っています。「田淵のリードが素晴らしかった。直球70%、カーブが29%、そしてフォークが1球。調子自体はそれほど良くなかったけど、オールスターに1位で出られたので気分は良かったですよ」

オールスター男の異名を取った長嶋茂雄は、「今日は江夏デーだったね。ホームランは打つは、9連続三振は達成するは。こっちは、まったく商売あがったりですよ」と、お株をとられた格好。王貞治と2人、試合後半はベンチの片隅でヤジ将軍と化していました。

江夏は2年後、8月30日のペナントレース、阪神vs.中日の20回戦でもっと凄い記録を作っています。延長11回をノーヒットノーラン。味方タイガースの打線も振るわず得点できず、延長戦に入ったのですが、延長11回裏に江夏自らがホームランを放ち、ついに1-0でサヨナラ勝ち。投げては無安打無得点、打ってはサヨナラホームランとまさに孤軍奮闘。球史に残る獅子奮迅の活躍でした。

このように輝かしい記録を残した江夏豊でしたが、南海、広島、日本ハム、西武と渡り歩き、結局は引退後に麻薬不法所持で逮捕されるという数奇な運命をたどる悲劇のヒーローでした。

団塊の世代にとっては、江夏豊といえば縦縞の阪神タイガースのユニフォームが一番似合っていたと思う方が多いでしょう。カープ時代の「伝説の21球」は、たしかにドラマ性があり、山際淳二氏の著書で有名になりましたが、やはり「オールスターの9連続三振」「延長11回のノーヒットノーラン」が印象に残っています。

ことしのオールスターでは、どんな「ドリーム」が生まれるのでしょうか。第二の江夏の登場が待ち遠しいものです。



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