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第十二回 回想・上海5年



 
(文)上海工商外国語学院 客員教授・中本 洋
 
昨年9月の新学期の契約の時、学校側から次のように言われました。「上海の規定では、外国人の先生は、同じ大学で連続5年以上は勤められません。よって来年は契約できません」。それを聞いて、私は即座に「今度は国立大学へ行こう」と決めました。そして思わず頬が緩みました。有体に言えば、この2,3年、本当に日本語を勉強したい学生だけを教えたい、と切実に思っていたからです。 中国に続々と私立大学が出来始めたのは、7.8年前からでした。まさに中国の経済成長と機を一にしていました。国家の中堅たる大学生の養成こそ急務になったからです……。ところで、私は今までの見聞や経験から「国家の文化程度や成熟度は、トップクラスの人間ではなく、大学で言えば二流クラスの大学生の意識や行動にかかっている」と思っています。世界中、どの国でも優秀な一部のエリートは同じくらい優秀です。問題は中堅クラスの人材の量、考え方、行動ではないでしょうか。


というわけで、私の今勤めている私立大学(3年制の技術専門学校)は、格好のテストケースと言えるでしょう。最初の年、二年生の日本語会話を教えました。一クラス40人ほど、多いですね。それを8クラスでしたが、私は日本人ですし、ある程度の学問があれば簡単だと思っていたのです。しかし、最初に戸惑ったのは、何よりも学生の日本語力が分からないことでした。学生は日本語を習い始めて一年経っているのですが、優秀な学生とダメな学生に完全に分かれていて、どこに標準を定めていいのか分からない、当然、中途半端になります。教えて一ヶ月ほど経ったある日、学部長に呼ばれて「父兄から校長に投書が来て、日本人の先生は教え方が下手だ、という抗議がきました」と言われ、妻と二人(妻も会話を教えていました)、しばらく悩みました。その後、私たちはいろいろ工夫をし、信用を得ましたが。

その時感じたのは、<父兄が口出しするのか!>という驚きでした。中国人の先生に聞いてみると「大金を出しているのだから当然」という考え方でした。<お金万能主義>の今の中国人の現状を目の当たりにしている私は、納得するしかありません。学生は学生で我儘な一人っ子ばかりなので、「面白くないものや、すぐに役立たないと思ったものには鼻も引っ掛けない」という態度を取るのです。例えば、「このページを暗記してきなさい」といっても、誰もやってこない! 宿題なんか「あなた、しないの? じゃあ、私も」というわけです。

学生たちの平気な顔を見て、私は怒る気力をなくしました。それ以後、黙って授業中に抜け出す者、遅刻しても謝らない者、よく眠る者、大声でお喋りする者、メールをずっと打っている者が、いること、いること……。叱り付けても無駄。まさに<カエルの面に小便>でした。<赤信号、みんなで渡れば怖くない>のでしょう。いかりや長介ではないが「こりやダメだ」。全員が無気力で全く勉強しないクラスもありました。「彼らは親が金持ちなので、見栄のため大学に入れられた」という。日本語が全く出来ない日本語学部生とは、一体なんですか? 君たちは大学生ではないのか! 彼らは「どうせ、お金で卒業証書を手に入れる」といわれています。多くの学生は覚めた目で、「私立大学は企業です。お金儲けです。教育現場ではありません」といいます。もちろん、頭のいい子、頑張り屋さん、可愛い子、面白い子などもいて、それなりに楽しかったので、5年間続けられたのですが……。

私はこの国に住み始めてから<多勢に無勢>ということを実感を持って知るようになりました。または、<悪化は良貨を駆逐する>ということも。時に、授業中のだらしない学生の姿を見ていると、私は<千万人と言えども、我、行かん>と言った孟子の気骨ある言葉を寂しく思い出すのです……。学校側は「半年過ぎてすぐまた戻ってきてください」といってくれました。嬉しいことは嬉しいですが、戻る気はありません。




あとがき

「ご好評の「地べたから見た日中の交差点」は、筆者帰国のため、今回を持ちまして 終了させていただきます。ご愛読誠にありがとうございました。次回の新企画をどうぞお楽しみに!!」

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