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第四回 時計のない風景



 
(文)上海工商外国語学院 客員教授・中本 洋
 
私が上海で語学留学を始めたのは、1999年9月からでした。大学での授業は平日の午前中だけでしたので、平日の午後や土、日には自転車やバスや地下鉄に乗り、よく市内を歩き回ったものでした。見るものすべて珍しく面白かったのですが、いつも奇妙な違和感に捕らえられました。何だろう? と考えるうち、はたと思い当たったのは「街中やレストラン、デパート、観光地などに<壁時計>が殆ど見当たらない」ということでした。なんと、殆どの地下鉄の駅にも時計がありません……。

ひるがえって、日本では、至る所で「時計」が見られます。鉄道はもちろん、日常の生活、あらゆる仕事は「時計」と共に進行しているといっていいでしょう。つまり、日本人の私にとって、<時計のない風景>は、まったく見慣れない風景だったのです。
それで、友人の上海人に聞いてみました。彼は首を傾げながら「もし、設置されている時計が正確でないと、市民に文句をつけられるし、故障すれば厄介だし、第一、なくても困らないからね……」。というのも、「バスが主要な交通機関である中国では、交通渋滞などで正確な時間を守るのは無理だから、時計は余り意味がないのです」。言われてみれば、なんとなく理解できました。それにしても、「時間を気にしない仕事や生活なんて、現代の世界的大都市?」というのが私の実感でした……。

ところで、昔から中国人のよく使う言葉に「差不多」(チャープトウ)と言う言葉があります。「大体」とか「大して違わない」と言う意味で、「そんなに神経質にならなくてもいいじゃないですか」というわけです。当時。正確な時間を気にしていた私は(サラリーマンを辞めたばかりでしたから)、「差不多」と言う中国人に、いつもイライラさせられたものでした。時計と関係のある<正確な数字>に関して言えば、有名な李白の詩の「白髪三千丈」というオーバーな表現があります。また、中国の古代の戦争での「兵士の穴埋め50万人」という歴史記述や、「南京虐殺30万人」という信じられない数字。それに、日中戦争で当初、日本軍による中国人の戦死者を中国側は数百万人と言っていたのに、数年前に江沢民は「3500万人」と勝手に言い変えています。我々日本人から見れば、中国人は数字に関する実証的な検証に興味がないとしか思えません。数年前、<SARS>が中国で大問題になったとき、北京政府発表の患者の数字のデタラメさの驚いたものですが、上海の学生たちはよく「上海政府はたった6名なんていっていますが、実は何百人もいるのです」と平気で言って、私を唖然とさせました……。

しかし、上海で「時間」をあまり気にしない生活を始めてみると、これがとても気楽なんですね。日本にいたときには味わえなかったものです。「時間」からの開放といっていいでしょう。そして「差不多」という中国人の“智恵”は満更捨てたものではないのではないか。ふと、そんなことを思うときがあります。しかし、資本主義の道を歩んでいる現代の上海人は、もう「差不多」が世界に通じないことを誰よりも知っています。喜ぶべきか、悲しむべきか、上海で働く日本人としてどう思えばいいのでしょう?


コメント

日本と中国の「時」の概念が違いますネ。
文化の違いと言えばそれまでですが、江戸時代から「時」を中心に生活習慣を確立した日本としては、驚きです。これからは、もっと日中の交流が進むでしょうから互いの文化を尊重し交流を深めたいものです。

投稿者 Anonymous : 2006年11月17日 13:43

こんなに近い隣国なのにいろいろ問題があるみたいですネ?諸問題は政治家の方々にお任せして、私たちは両国の文化等相互理解を深めたいものです。このコラムで私たちの知らない日常のことを教えてくださると助かります。

投稿者 田中義春 : 2006年11月27日 17:02

時間などもともと無いもの。相対性理論だの時空だのいう輩がいるが、時間などもともとなく、時計があるだけなのだ。親が子供に時間を守るように教育しても元々観念がなかった子供は自分のペースで行動する。それをマイペースな子と思い、うるさく注意すればやがて注意する・しないで物事を判断するようになる。○○しないと人に迷惑がかかるから共通認識である時間をまもるのであって自分だけの都合なら守る必要はない。人間社会で併せなければならない都合上時間が設定されただけなのだ。
過去を思い出し比較できる人間だからこそできた記憶の産物であると私は思う。
だって人間より寿命の短い虫だって植物だって時間観念がなくたって彼らはほっといても繁栄のための行動はするではないか。
人間だったら「時間がない、だから無駄なく行動しなければ」とおもうはずでしょ。

投稿者 なっくあおち : 2007年04月27日 11:47

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