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第四回 一の宮めぐり

 
エッセイスト 中尾伊早子


はじめに

むかしむかし、日本の人々は、自然と共に暮らしていました。
おじいさんは山へ柴刈りに行き、おばあさんは川へ洗濯に行きました。
山には森があり、水が湧き、木の実やキノコ等の食べ物があり、植物は薬になるものもありました。木は家を建てる材木になり、火を焚く燃料にもなりました。
今のように、スイッチ一つで電気がつき、蛇口をひねれば水が出るという生活ではありませんでした。
 人間が生きるために必要なものを与えてくれる山=森にはきっと神様がいらっしゃるのだと人々は思いました。だから、田畑を耕す為に森を切り開いても、必ずその一部を残し、感謝をする場所として、長く守りつづけてきたのです。
 「鎮守の森」とは、そうして自然に生かされていることを知っていた古の人々の智慧によって守られてきた大切な場所です。
今も、全国に残る鎮守の森。
神社とはなんなのか、そこで行われるお祭りにはどんな意味があるのか…そこには、四季があって、自然豊かな国だからこそ生まれた〝日本がもっと好きになる〟物語がたくさん詰まっています。そんな物語を一つ一つ紐解いて、お伝えしていきたいと思います。


 

一昨年、ある神社で「一の宮ご朱印帳」なるものを見つけてから一の宮めぐりにはまっています。入江孝一郎著『諸国一の宮』によると、“日本全国の旧国の国々に「一の宮」を名乗る神社は68カ国のうち97社ある。中には1国に2~3社のところもあるからである。それは、1国に2社も一の宮があって争ったり、時代が変わるにつれ他の神社が一の宮に変わったり、それなりに栄枯盛衰、移り変わりを物語っている。”とのこと。一の宮は鎌倉初期には全国的に定められ、そのほとんどは『延喜式』神名帳に記帳されている古い神社です。歴史を紐解くにも、その土地を知るにも、各地の一の宮には様々な発見があり、私にとって一の宮巡りは、旅に出る際の大きな楽しみの一つとなっています。

伊太祁曽(イタキソ)神社というわけで、これからは時々、この一の宮も紹介していこうと思います。最初にご紹介するのは和歌山県の『伊太祁曽(イタキソ)神社』です。NPOちんじゅの森主催の「はじめてのご遷宮フォーラムVol.2」に講師でお招きした池田聡寿氏に木曽をご案内いただいた際に、“『ちんじゅの森』というからには、木の神様の一の宮にはご挨拶に行かないとね”と、この『伊太祁曽神社』をご紹介いただきました。

伊太祁曽神社 いのちの水和歌山県は紀伊国=木の国なんですね。そしてその木の国の一の宮が『伊太祁曽神社』なのです。主祭神・五十猛命(イタケルノミコト)は『日本書紀』に、日本中に木を植えて回ったとされていることから、木の神様、緑化の神様と呼ばれて木材業や製材業など木に関わる人々に特に尊崇されてきたようです。境内は木々に囲まれ、裏山の御井(みい)の杜には『いのちの水』が沸き、遠方からも多くの方がこの水を汲みにくるそうです。

和歌山は伊太祁曽神社の他に『丹生都比売(ニブツヒメ)神社』、『日前(ヒノクマ)・国懸(クニカカス)神宮』と一の宮が一国に3つもある上、熊野本宮、那智大社、速玉大社、ゴトビキ岩の神倉神社、針供養や雛流しで有名な淡島神社など古い神社がたくさんあります。海にはクジラの群が通り、神様を感じる深い森や岩や滝があり、イザナギがお隠れになったという花の巌神社もあります。大昔から人々の信仰を集めたこの地に私はとても惹かれます。

小道大和八木からレンタカーを借りて熊野までドライブしたときのこと。道を間違えたことに気付かずにどんどん進んでいくとまっすぐな長いトンネルがありました。そのトンネルまで行き交う車は一台もなく、トンネル内は一台分の幅しかありません。そんなトンネルをようやく抜けようとしたとき、向こう側の出口が大きな落石でふさがれているのが見えました。夫が運転していたので、私は助手席に座っているだけでしたが、トンネルも古いし、恐くて心がざわっとしたのを覚えています。そのままゆっくりバックで戻り、ようやくもとの入口に出てホッとしたとき、トンネルの上からふわっと若い鹿が下りてきて、一瞬私たちの車の前に立ちどまり、そのまままた向きを変えると、谷へと降りていきました。

その時の鹿の神々しかったこと…。子どもの頃、ディズニーの絵本の中でも『バンビ』が一番好きだった私にとって、こういう場所での美しい鹿との出会いは夢のようでした。その夜は奈良の山の中の友人の家に泊って庭で焚き火をしながら朝方まで話し込んだのですが、真っ暗な山に青い月が冷たく光って、時々悲しい鹿の鳴き声が聞こえ、とても幻想的な一日でした。その山ではカモシカにも出会えましたし、もののけ姫が住んでいそうな深い森も美しい川もまだ残っています。伊勢とはまた違う、なにものかの気配を感じる森の奥に、時々、身を置く時間が必要だと思うのは、私の中の動物の血が騒ぐからでしょうか…

私の一の宮巡りはこれまでに20箇所を回りました。ご朱印帳の事を知る前にすでに行った事のある神社がいくつもあるのですが、せっかくなので、すべてのご朱印をいただきに、改めて訪れたいと思っています。

伊太祁曽(イタキソ)神社 →http://www.nextftp.com/itakiso-jinja/
 

コメント

ほんとにもののけ姫に出てくるような光景ですね。焚き火をしながら青い冷たく光った月を見る・・・。トンネルを抜けたらふわっと、若い鹿が目の前に現れた・・・。素敵な体験をされましたね!

投稿者 落合信一郎 : 2007年03月05日 10:38

落合様
コメントありがとうございました。青い月の光の下で黒いシルエットの山に囲まれて火を焚くのはとてもステキでした。「水」と「火」は何時間見ていても飽きませんよね。鹿やカモシカとの出会いも、忘れられません。日本のステキな場所、残していきたいです。これから、私もできる限り、お返事をしたいと思いますので、みなさんもぜひ、メッセージを残してくださいね。

投稿者 中尾伊早子 : 2007年03月05日 11:33

このエッセイをいつも楽しく拝見しています。何故か神社に行くと心が休まります。また、元気のエネルギーを戴けるようで生きている実感が生まれます。日本には沢山の神社があると思いますが、時間が許す限り今年は神社巡りをしたいと思います。

投稿者 吉田美恵子 : 2007年03月05日 13:34

吉田様
コメントありがとうございます。
なぜ、神社に行くと心が休まるのでしょうね。
やはり、日本人だからでしょうか…
この豊かな自然に育まれた日本人独特の感性は失いたくないですね。

投稿者 中尾伊早子 : 2007年03月05日 15:15

神社では癒されると同時にエネルギーももらえるというのは、私も実感しています。数年前鞍馬山の由岐神社から貴船神社へ抜けたときのことは、本当に驚くべき体験として今でも忘れられません。3泊4日の旅の最後の日でかなり疲れていて、よほど行くのをよそうかと思ったくらいだったのですが・・・・・。歩を進めるに従ってどんどん元気が出てきて、足取りも軽く飛ぶように歩けるのです。自分自身がびっくりしながら、足に引っ張られて?歩いてしまいました。神様がおられることを実感した忘れられない経験です。中尾さんの一の宮巡り、期待しています。

投稿者 志藤洋子 : 2007年03月05日 21:01

志藤様
わかります!!
子どもの頃から喘息で宮崎の親戚の家に預けられて、海へ山へと連れ出されたのですが、すぐに疲れて全然楽しめませんでした。けれども大人になって神社に足を運ぶようになってから、どんなに山奥にある奥の院でも急な階段が続く境内へも歩けるようになりました。神様が待ってくれているのだと思います(^^)

投稿者 中尾伊早子 : 2007年03月06日 14:28

「イーハトーブの森」が神戸のキリンビアパークに作られていました。どんぐりの実を植えて育てて行き、今や野鳥が次々と集まり巣を作ってます。まるでトトロのお話そのものです!いつかそこへ鹿やりすやたぬきやイノシシが共存出来るように、私達も自然に彩かって木々や生きものを守りたいですね。

投稿者 中村有羽子 : 2007年03月07日 19:00

中村様
コメントありがとうございます。30代後半になって、ようやく宮沢賢治の偉大さに気付きました。パロル舎の宮沢賢治シリーズが大好きで全部そろえました(^^)v宮沢賢治の視点で田舎を歩くと、森や風や生きものや電信柱まで見え方が変わってきますよね。森の成長が楽しみです♪

投稿者 中尾伊早子 : 2007年03月08日 10:45

伊太祁曽神社禰宜です。
数ある一の宮の中から最初に掲載いただきありがとうございます。一の宮といっても規模は大小さまざまです。中には常駐の神主がいらっしゃらない神社もあります。しかし、ある時代の中ではそれなりに規模があり崇敬を集めた神社が一の宮になっています。五十猛命を祀る神社は全国に300社あるといわれています。その大本が当神社です。木の神である五十猛命が鎮座されていることから和歌山県は古来「木の国」と呼ばれ、転じて「紀伊国」となりました。祇園神社、御井社の写真を掲載して頂いておりますが、もし可能であれば御本社の写真を掲載していただければ幸いです。少しずつ境内整備をしており、祇園神社、御井社につきましても、掲載して頂いている写真とは様子が変わっております。また、関西方面にお越しの際は、是非ご参拝ください。

投稿者 禰宜 : 2007年05月03日 16:42

伊太祁曽神社 禰宜様
ご無沙汰しています。私が一宮のご朱印帳の存在を教えていただいたのが、そちらの宮司様でしたので、最初に紹介させていただきました。ご自宅の襖絵(江戸時代?)も素晴らしかったです。
電車も可愛くなりましたし、参拝客も増えると良いですね。
私はこのときの写真しかありませんので、また写真を撮りに伺います。コメントありがとうございましたm(__)m

投稿者 中尾伊早子 : 2007年05月16日 16:14

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